結合共振器系における新たな光子ブロッケードの発見

従来の光源は、パルス光や連続光として光子と呼ばれる光の粒を大量に放出します。しかし、量子技術を応用した装置の多くは、光子の量子力学的なふるまいを利用するため、大量の光子を扱うことはできず、たった数個(または1個)のみの光子を必要とします。そのため、1個の光子(単一光子)だけが含まれる光パルスを任意のタイミングで発生させることのできる光源が必要になります

単一光子を発生させる光源としては、2準位のエミッタ–共振器システムがあります。例えば、対面させた2枚の鏡からなる光共振器の中に、単一の原子や量子ドットのエミッタを配置したようなシステムです。このようなシステムでは、一度にたった1つの光子のみを通過させる『光子ブロッケード』と呼ばれる効果が現れるため、共振器内部においてたった一つの光子のみが存在している状態を作り出すことができます。古典的な光源では光子が塊(bunch;バンチ)として放出されるのに対し、このシステムで放出される光は、一度に1つの光子のみを放出するため、従来の古典的な光源よりも光子同士の間隔が広くなります。このように光子が離散的に存在した状態を『光子アンチバンチング(photon antibunching)』と呼びます。

しかし、単一の共振器で生じる光子ブロッケードは、エミッタと共振器の強い相互作用(もしくは光子の非常に強い非線形性)を必要とし、デバイスの作製が難しく、実現は困難です。一方で、2010年に理論物理学者によって、結合共振器系(2つの共振器が相互作用し結びついている状態)では非線形性が弱くても強いアンチバンチングを示す光を放出する、『非従来型光子ブロッケード』という効果が生じうることが示されました。しかし、非従来型光子ブロッケードが生じるメカニズムは明らかになっていませんでした。

2011年、私たちは結合共振器系において非従来型光ブロッケードが生じる背景にあるメカニズムを解析的に調べ、2つの異なる励起経路間で破壊的な量子干渉が生じることで、共振器内に2個の光子が同時に存在することはできないということを証明した論文を発表しました。この研究は関連分野に大きな波及効果をもたらし、多くの理論物理学者によって本研究をさまざまな形で拡張した解析的研究が展開されました。私たちの研究結果を実験的に証明するのは容易ではありませんでしたが、2018年、論文発表から7年という長い時を経て、ついに私たちの理論的予測と合致する2つの実験が発表されました。

Vanephらは2018年、結合した2つの超伝導共振器を用いて、マイクロ波光子に対する非従来型光子ブロッケードを実現する系をデザインし、実験を行いました。その結果、片方の共振器に非線形性を導入することによって、2つのマイクロ波光子の透過がブロックされることを実験的に示すことに成功しました。更に、これらの共振器から放出された光子は、アンチバンチング状態とバンチング状態を高速で遷移することも示されました。この現象も理論的に予測されていたものでした。

2018年に行われたSnijdersらによる別の実験では、共振器内に量子ドットのエミッタのように直行する2つの偏光モードを用いることで、単一の共振器でありながら結合共振器系と概ね同じような構成となる系を構築し、非従来型光子ブロッケードを実現しました。この弱く結合した系で実験を行った結果、理論的に予測された通り光子のアンチバンチングが観測され、従来型の光子ブロッケードの構成ではアンチバンチングは観測されませんでした。

これらの発見は、非従来型光ブロッケードのメカニズム解明に光明をもたらすとともに、単一光子に基づく量子技術を前進させ、量子イメージングにおける分解能の向上や、安全性の高い通信技術の実現へ向けて道を開く可能性を秘めています。

論文タイトル:

Origin of strong photon antibunching in weakly nonlinear photonic molecules

著者:

Motoaki Bamba, Atac Imamoğlu, Iacopo Carusotto, and Cristiano Ciuti

DOI:

10.1103/PhysRevA.83.021802

論文リンク:

https://doi.org/10.1103/PhysRevA.83.021802