理論的に予測されたスクイーズド光の発生を実験で検証:理論と実験の両面からアプローチ

量子力学的な現象を利用したデバイスをデザインする際、鍵を握るのはデバイスの動作原理と使用する粒子の選択です。しかし、ここで悩ましい問題があります。粒子の寿命、つまりコヒーレンスと、粒子間に働く相互作用の強さはトレードオフの関係にあるため、その両立が難しいのです。例えば、光子は高いコヒーレンスを持ちますが光子同士に働く相互作用が弱い一方、物質中での励起子(クーロン引力の相互作用により結合した負電荷を持つ電子と正電荷を持つ正孔の対)は強く相互作用しますがコヒーレンスは低いという特徴があります。

そこで私たちは、部分的に光で部分的に物質の準粒子であるポラリトンに着目しました。ポラリトンは光と物質の二面性を持つことから、コヒーレンス と相互作用強度のトレードオフという難題を解決する可能性があります。私たちは2010年に、物質内に強く閉じ込められたポラリトンが、スクイーズド光(量子論的に揺らぎが抑えられた光)を発生させるメカニズムを理論的に予測した論文をPhysical Review Letters誌に発表しました。

私たちはフランス国立科学研究センターおよびピエール・マリー・キュリー大学の研究者らと協働し、理論的予測が実験でも支持されるか検証を行いました。実験は、ピラー型のマイクロ構造を持つ半導体を用いて行いました。ピラー構造によって、ポラリトンが取りうる量子状態のエネルギー準位を離散化できました。そしてエネルギー準位の離散化により、レーザー光で励起されない他のエネルギー準位からの雑音の侵入が抑制されました。この結果は2014年、Nature Communications誌に掲載されました。

量子通信や量子コンピューティングなどの今後の量子技術にとって、スクイーズド光は非常に重要な役割を持ちます。私たちの発見は、スクイーズド光発生のための新たな技術開発に向けた道筋を示す成果と言えるでしょう。さらに、特筆すべきことに、この実験で用いた量子デバイスが必要とする電力は約数ミリワットと小さいため、半導体プラットフォームの中に組み込むことができます。

もう一つ重要な点として、理論と実験の物理学者が手を組んで初めて、このような研究が可能になったということが挙げられます。このような協働は物理の分野で常に行われているわけではありません。量子力学とそれに関連する応用技術の進歩のために、理論と実験の協働が極めて重要になってきています。

Motoaki Bamba, Simon Pigeon, and Cristiano Ciuti
“Quantum Squeezing Generation versus Photon Localization in a Disordered Planar Microcavity”
Physical Review Letters 104, 213604 (2010)
https://arxiv.org/abs/1002.4804

Thomas Boulier, Motoaki Bamba, Albert Amo, Claire Adrados, Lemaitre Lemaitre, Elisabeth Galopin, Isabelle Sagnes, Jacqueline Bloch, Cristiano Ciuti, Elisabeth Giacobino, and Albert Bramati
“Polariton-generated intensity squeezing in semiconductor micropillars”
Nature Communications 5, 3260 (2014)